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資料code:980129

出典:オプトロニクス 17 (12) 134-140, 1998 


LEDの植物栽培への適用

田中 史宏 渡辺 博之

1.はじめに

 現在、植物栽培に利用されている光源は、主に高圧ナトリウムランプ、蛍光灯および白熱灯である。これらの光源は効果およびコスト面を考慮した上で、それぞれの用途、場面に適した選択が行われてきた。しかしLEDという新しい特徴を持った光源が現れた今、より効率的な植物生産のために、これまで使用してきた方法が本当に最適なのか、問い直す必要があると考えている。

 ここではLEDの一般的な性質、さらに植物栽培用光源としてみた場合のLEDの特徴について、他の人工光源と比較して説明する。続いてこれまで我々が行ってきた植物栽培の試験例を紹介し、最後にLEDの植物栽培への適用についての意見を述べたい。

2.LEDとは

 LEDとはLight Emitting Diode(発光ダイオード)の略で、光半導体の一種である。

 LEDはここ数年間で飛躍的に性能が向上し、また価格も安くなってきたことにより、急速に私たちの生活場面に使われるようになった。最も身近な使用例として、自動車のハイマウントストップランプの赤色LEDや、テレビなど家電機器のリモコンに使用されている赤外域のLEDなどが挙げられる。可視光域のLEDは、主に表示用として青色、緑色および赤色を始めとする各色が使用され、赤外域のLEDはリモコンや光通信に利用されている。
 LED業界のここ数年の最も大きなトピックの1つは、1993年末に高輝度青色LEDが開発されたことである。この技術によりLEDフルカラー表示が可能になり、また植物にとっては、LEDによって青色光の生理反応を引き起こすことが可能になった。

 LEDは構造、発光方法が他の光源とは全く異なっており、後述するがそれ故に他の光源にはない特徴を持つ。このランプのメリットを最大限に生かせば、植物栽培を有利に行うことができると考え、我々は数年前からLEDを光源とした栽培試験を行っている1)。ここでは主にLED植物工場を目指したレタス栽培、および施設栽培での使用例を紹介する。

3.LEDの特徴

 LEDは化合物半導体であり、発光部分の主原料は、ガリウム、アルミニウム、リンなどのVーX属元素、あるいは亜鉛、カドミウム、セレンなどのUーY属元素である(表1)。 LEDの基本的な構造を図1に示すが、n型半導体結晶はX、Y属元素を含んでおり、p型半導体結晶はU、V属元素を含んでいる。電圧をかけるとn型半導体結晶に多くある電子が、p型半導体結晶中にある正孔に移動し、その際n型、p型半導体結晶の界面で発光が起こる2)

 発生する光は元素の組成によって異なる。但しスペクトルは半値幅の差こそあるが通常単一のピークを示し、当然ながら赤外線(熱線)は生成されない(発熱は起こる)。これらの点は植物栽培の観点に立った場合、LEDを他の光源と差別化し、特徴付ける重要な点である。

 その他の特徴として次のことが挙げられる。まずLEDランプは長寿命である。発光素子自体は鉱石なので構造的に玉切れが少なく、また使用条件をコントロールする事により、ランプの劣化を抑えることが容易にできる。またLEDランプは、発光素子をエポキシ樹脂に封入した形態が一般的であるので割れる心配がなく、フィラメントもないので、振動や衝撃に対して非常に強い。LEDが初めて実用化されたのが、アポロ宇宙船のインジケータといわれているのもうなずける。

 素子のサイズは非常に小さく、0.3mm角程度であるので、ランプユニットを設計する上での自由度は高い。

 低い電力で駆動できるのも特徴である。ランプ1個の点灯に必要な電流は約20mA、必要な電圧はランプの種類にもよるが約2Vある。

 電流の入り切りに対してもLEDは強い。たとえば点滅周期1μs以下のような、他の光源なら寿命が著しく低下するかあるいは駆動できないパルス条件でも、LEDの場合はほとんど劣化せず、連続点灯した場合より逆に寿命が伸びるといわれている。暗期、すなわち素子が加熱されない時間が確保できるためである。赤色LEDの場合、電気から光への最終的な変換効率(発光効率)は20%強で、それ以外は熱に変換され、素子の発熱となる。LEDの弱点は熱であり、素子が高温になるほど劣化が進む。

 価格は一般的に波長が長いほど低価格であり、出力も高い。表示用に使用されている赤色砲弾型ランプの場合、1個数十円である。青色または緑色のランプは赤色ランプの数倍の価格である。但し製品のグレードや性能のばらつき、あるいは購入個数による価格差は大きい。

 他の光源と比較した発光量当たりのランプコストは、以前にはLEDは非常に高く、農業用途に利用することは困難であった。しかし近年の技術開発の速度はめざましく、飛躍的な発光効率の向上、および量産化による価格の低下のおかげで、LEDの発光量当たりのランプコストは急激に低下しており、今後もこの傾向は続くと予想される。現段階ではまだ高圧ナトリウムランプや蛍光灯には及ばないが、先に述べたLEDの特徴を最大限に利用することにより、この欠点は補うことができると考えている。

 4.植物と光

 可視光線中で植物の利用している光として、@光合成のための光(主に赤色光)、Aフィトクロム系の可逆反応のための赤色および遠赤色光、B高エネルギー反応のための青色光が挙げられる。

 @については、植物は光合成を行っており、すなわち光をエネルギー源として二酸化炭素と水から糖(と酸素)を合成している。光合成反応に利用される光の吸収スペクトルは可視光全域にわたっているが、そのピーク波長は660?680nm(赤色光)にあることが知られている。すなわち植物にとって赤色光は最も吸収しやすく、光合成反応に効率の高い光と考えられる。

 Aについては、植物の光形態形成にとって重要な反応であり、種子の発芽、花芽分化、茎の伸長などを制御している。

 フィトクロムは赤色光(ピーク波長660?680nm)、あるいは遠赤色光(同730?740nm)を受光することにより、それぞれもう一方の波長の光を吸収ピークに持つ物質に可逆的に変化する。すなわち赤色光吸収型フィトクロムは、赤色光を吸収することにより遠赤色光吸収型フィトクロムになり、また逆の反応も存在する。フィトクロムのそれぞれの型は、赤色光と遠赤色光の比率に対応した量で平衡に達し(光平衡)、それによって植物は様々な反応を示す。

 Bについては、光屈性(茎や葉が光の方を向く現象)、伸長抑制、色素合成、気孔の開度などを制御する反応や、種々の遺伝子の発現にも関与している。活性スペクトルのピーク波長が450?470nmにあることは以前から知られていたが、1995年にCashmoreらによって高等植物の青色光受容体の発色団がFAD(flavine adenine dinucleotide)誘導体であることが確認された3)

  5.植物とLED

 植物栽培の面から見たLEDの特徴は、@発光スペクトルが単一のピークで半値幅が狭い、A熱線をほとんど照射しない、B発光のパルス化が容易である等が挙げられる。

 @の理由によりLEDは、特にフィトクロム系や青色高エネルギー反応系の制御に最適な光源といえる。また電力量の面からは、光合成に最も有効な赤色光のみを出力することができるので、同じ発光効率の他の光源と比べて、電力に対する光合成量は大きくなると期待できる。

 Aの特徴は、LEDを植物に近接して光照射ができることを意味する。光が熱線を含んでいる場合の近接照射は、植物の特に若い芽や葉に障害を起こしやすく致命的であるが、LEDの場合は1cmでも離れていれば葉焼け等の障害は起こらない。近接照射はランプから出た光を効率的に植物に照射することができるので、光(=電気)の有効利用につながると考えている。

 Bの特徴は、光を光合成反応に有効に利用できる可能性を与えている。光合成反応には光が当たっていなくても進む反応(暗反応)があり、光(連続光)が十分にある場合、この反応が光合成反応の律速段階になっている。その瞬間(ミリ秒レベル)は光が有効に利用されていないと報告されており4,5)、パルス光栽培の適切な条件が確立されれば、LEDの電力的なメリットはさらに増加する。

6.栽培試験

 ここ数年間で我々が行ってきた栽培試験の中から、1.植物の光の要求性調査、2.レタス栽培試験ー1(赤色+青色LED)、3. レタス栽培試験ー2(赤色LED光量増加)、4.パルス光実験、5.キク電照栽培試験について順に紹介する。  

 なお試験に使用したLEDは青色光、赤色光、遠赤色光の3種類で、それぞれのピーク波長450、660、730nmであり、発光スペクトルを図2に示した。

6.1)植物の光の要求性調査

 LEDランプを入手した時、まず初めに次のことが疑問に浮かんだ。太陽光やさらには他の人工光と比較しても、非常に偏ったスペクトルをもつLEDの光で、果たして植物が正常に育つのだろうか。

 そこでキク科、アブラナ科植物の葉菜類を中心に、3種の光の組み合わせのもとで栽培試験を行い、植物の形態を調査した(表2) 6)。表2中の上段から順に、レタス〜エンダイブはキク科、コマツナ〜ハツカダイコンはアブラナ科、ホウレンソウはアカザ科である。栽培は、野菜育苗用培土を充填したセル成形トレイまたは育苗ポットに播種した後、温度25℃、湿度60%RHのインキュベータ内で行った。LEDの光だけを照射し、光量は50μmol/m2・sとした。

  コマツナ、シュンギクは赤色光だけで、正常の草型で生育したが、レタス、サラダナ(両者ともLactucasativa L.)は青色光を要求した。ホウレンソウは青色光の添加で徒長(葉や茎が細長く伸びること)が軽減されたが、まだ不十分であり、青色光の割合あるいは全光量の増加が必要であると考えられる。遠赤色光は全ての供試植物に徒長作用をもたらしたが、コマツナだけは葉柄(葉と主茎の間の枝の部分)の伸長のみで、節間伸長は観察されなかった。

 以上の結果より、同じ科の植物でも光の要求性が異なっていること、および青色光や遠赤色光の作用性が異なることが判明した。コマツナとチンゲンサイはかなり近縁の種であると思われたが、遠赤色光sativa L.)の中でも、品種の違いによる青色光の要求量の違いが認められることから(未発表)、栽培時の品種選定は1つの重要な課題と認識している。

6.2)レタス栽培試験ー1(赤色+青色LED)

 植物工場での栽培を想定し、リーフレタスの水耕栽培試験を行った。青色LEDを添加することにより、多くの種類の植物が栽培しやすくなると考えられるが、価格は大きく上昇する。すなわち青色光割合を低くすることがランプコストの低減につながる。そこでに青色光割合を低くした場合の、植物の生育に対する影響を調査した。

 リーフレタス(品種:レッドファイヤー)を赤色LEDと青色LEDを光源とし、表3の光条件下で収穫時期まで水耕栽培を行った7)

 その結果、全光量100μmol/m2・s、青色光8%以上で徒長が抑えられ、十分な生育を示した。光量が80μmol/m2・sでは、青色光8%でも徒長が起こり、生育量が著しく低下した。ここで徒長には光量による影響が少なくないことが示唆された。

6.3)レタス栽培試験ー2(赤色LED光量増加)

 先の結果を受け、ランプコストをさらに低減するために赤色LEDだけを光源とし、その光量を100?200μmol/m2・sに増強して(表4)、リーフレタスの栽培試験を行った7)

 その結果、赤色光130μmol/m2・s以上の光量のもとで、リーフレタスは正常の草型での生育を示した。しかもLED栽培では蛍光灯と比較して生育量が勝っていた。この結果は、LEDの中でコスト的に最も有利な赤色LEDだけでレタスの生産が可能であることを示している。

6.4)パルス光実験

 LEDランプで使用する電力を有効に利用するために、パルス光の生育に対する影響について調査した8)。栽培試験はパルス周期(1)および明期比率(2)について行った。

 またレタス葉切片を用いて、光合成速度の測定を行った(3)。

(1)パルス周期の影響

 LED照射光のパルス周期を10μsから10msの間に設定した。なお全区について、時間当たりの平均消費電力を100W/m2、明期比率は50%に固定した。調査にはセル成形トレイに播種したリーフレタス(品種:グランドラピッド)苗を用い、温度25℃、湿度60%RHのインキュベータ内で20日間栽培し、生育量を測定した。


その結果、周期10μsおよび100μsのパルス光で、連続光に対して約20%の生育促進効果が認められた(図3)

 (2)パルス明期比率の影響

 LED照射光のパルス周期を10μsに固定し、明期比率を10%から50%に設定した。時間当たりの平均消費電力は全区ともに100W/ m2とした。

 その結果、明期比率33%で生育促進効果が最大になった(図4)。また明期比率10%では促進効果は認められず、連続光と同様の生育量を示した。

(3) 葉切片

 緩衝溶液中のレタス葉切片にLEDパルス光を照射し、発生する酸素量を測定する事により、光合成活性を調査した。パルス条件は消費電力を一定にしたうえで、明期比率を50%に固定し、周期を100nsから1msに設定した。

 その結果、パスル周期の違いによる光合成活性の差は認められず、連続光と同様の活性を示した(図5)。(1)と(3)では供試体が植物体と葉切片の違いを始め、試験条件が異なるために単純な比較はできないが、異なる結果となった。

パルス光と光合成、あるいは生育量との関係にはまだ不明な点が多く、さらなる研究が必要である。照射光のパルス化が容易なLEDは、この分野の実験道具として有効であろう。安定した効果が得られる条件が明らかになった時、この技術はLED植物工場の電力コストを低減する可能性を持っている。

6.5)キク電照栽培試験

 キクの栽培現場では、ほとんどの場合電照が行われている。電照の目的は、キクのような短日植物(日長が短くなると花芽を形成する植物)に対し、夜間照明などにより長日条件にして、花芽形成を抑制し開花時期を制御することである。日長反応の場合、植物が受け取るのは信号としての光なので、比較的低い光量で効果が現れる。日長反応はフィトクロムが主要な光受容体と考えられおり、赤色光が有効であることが知られている。

 そこでキク(品種:精雲)に対する、電照の光量と花芽の発達程度の関係を、LEDと慣行の白熱灯で比較した9)。LEDはピーク波長660nm(赤色)のランプを使用した。

 結果は図6に示した。図6は横軸の光量で電照した場合の、花蕾発達程度指数を表している(調査時点での正常生育の指数は約1.5)。光量が不足している場合は、花蕾の発達が進み、高い指数を示す。図6より、精雲の開花制御に必要な電照光量は、白熱灯が約0.7μmol/m2・s以上であったのに対し、LEDでは約0.4μmol/m2・sであったと読みとることができる。必要光量が異なった原因は、LEDと白熱灯の発光スペクトルの違い(白熱灯は遠赤色光?赤外線が多い)であると推測される。

7.LEDの利用場面

 植物栽培用光源としてのLEDの特徴を最大限に生かすシステムの1つとして、植物工場を考えている。実用化のためには、太陽光を全く利用しない完全制御型が望ましく、さらにスペース(土地)を有効利用する多段式栽培が必要となるであろう。ここではLEDの特徴であるランプサイズの小ささ、および熱線による植物の障害を考慮しなくてよいという点が、小さな空間の栽培スペースを高く積み上げる方式を可能にする。

 植物工場がこれまで一般的に普及してこなかった最大の理由は、建設費およびランニングコスト(主に電力費)の高さである。LEDは、その両者を低減する可能性を持った光源であると考えている。

 さらにここで蓄積された光利用技術は、育苗工場や培養苗工場への利用も可能と考えている。苗生産業者は製品である苗を、指定日に確実にユーザーに届けることが要求される。すなわち計画生産が求められるため、完全制御型の育苗工場のメリットを生かしやすいと考えている。また植物(野菜)工場と比べて、さらなる縦空間の有効利用が期待される。ただし実用化のためには、野菜工場とは異なった課題が存在するのも事実である。1つは、多くの種類の植物苗を生産するため、赤色光だけでは対応が難しいことである。おそらく青色光の添加が必要であり、青色LEDの価格低下、さらなる高輝度化が待たれる。また培土を使用するために、野菜工場とは異なった潅水システムが必要になる点も挙げられる。

 その他の用途としては施設栽培用のランプが考えられる。LEDを用いてそれらのランプを構成した場合、LEDの特徴である耐久性および低消費電力の性質を備えることができる。対象植物ごとにLED電照栽培の特徴的な効果を見出すことが普及の鍵となるであろう。また現代の住宅事情および園芸人気をふまえて、コンパクトで光合成への効果の高い、屋内用植物補光装置も今後の方向であると考えている。

 

<参考文献>

1)高辻正基編「植物工場ハンドブック」p44、東海大学出版

2)西澤潤一「発光ダイオードとその応用」産業図書

3)Cashmore, A.R. et al., Science, 269, 968 (1995)

4)岩波洋造「光合成の世界」p152、講談社ブルーバックス

5)高辻正基「野菜工場」p127、丸善

6)渡辺博之ら,園芸学会誌,64(別1),390 (1995)

7)渡辺博之ら,日本植物工場学会平成7年度大会学術講演要旨集,17 (1995)

8)渡辺博之ら,日本植物工場学会平成7年度大会学術講演要旨集,19 (1995)

9)河合ら,園芸学会誌,65(別1),454 (1996)

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